We keep this love in a photograph

大都市は並ぶビル、人、車、ゴミの量によって汚れた表面上の美しさを醸し出していた。闇が奥深くに隠れていた。それを誰もがはっきり確認しているものの手を出す事はなかった。ただ闇は闇のままだった。

 

新宿から京王線で4.5駅いったところに彼は住んでいた。汚れたアパートの2階に住む彼はワンルームの狭くお世辞にも片付けられているとは言えない部屋を寝床にし、なんとか意識を保っていた。惨め以外なにも残らないその姿は東京の闇そのものを映し出しているようだった。昼間にもかかわらずカーテンも窓も締め切られていて甘い特別な香りが充満していた。外の光がほとんど閉ざされた部屋に小さな通販番組だけが灯りを灯していた。彼は音量がゼロにされている画面を瞬きも忘れたようにじっと見つめ続ける。

思考がぐるぐる回り言葉にする事さえもできない。感じた事のないスピードで言葉や思考が脳内を駆け巡っては遠くに消えていってしまう。とても大事な物がものすごいスピードで通りすぎては消えてしまい、失ってしまうようだった。彼はそれを全身を使って止め、拾い集めようとした……が、とてもじゃないができなかった。全身を使って止め続ける間にもかけがえのない物が彼を通り過ぎてしまう。結局彼はなに1つ自分の物にできず高速道路の真ん中でしゃがみ込んでしまう。それでも止まらない。目を瞑ろうが頭を抱え込もうが隣を幾多の塊が通り過ぎた。

 

しばらくして彼は目を開けて息を荒くしながらパソコンに近づき音楽をかけた。

 

 

円が見えた。

 

頭の中に1つの大きな円が見える。それはリズムを表した。1つの点が見えた。点は円の中心を正確に通り、円の端と端をつないだ。さまざまなスピードを持った点が正確に円の中を動いた。音色を持つ点も現れた。和音の点も現れた。すべてがリズムとして別の動きをしながら共鳴していた。そしてもう1つ点が現れた。頭にはっきりと…その点は自由に踊った。この世界を、自由に、思うがまま、だれもが予測出来ない動きで、縦横無尽に動き回った。点は言葉を含んでさらに自由に自分を表現した。そして点はさらに増えた。この点も自由に踊った。ただこの点は言葉を持っていなかった。その代わりに言葉にはない音色を持ち合わせた。大きな円の中でいくつもの点がそれぞれの個性を持ってリズムに合わせて自由に踊った。

それはこの闇をすこし晴らす事のできるような気がした。彼は視覚、嗅覚、味覚を捨て聴覚と触覚を頼りに頭の世界に飛び込んだ。そこには6つ目の感覚が存在した。。。

 

ここで時間がきた。

彼は急に睡魔に襲われた。そしてたまらないほどお腹が空いた。白飯をレンジを温めて塩をかけて食べた。

涙が止まらなかった。

旨かったからではない。

さまざまな記憶が頭を張り巡らせたからである。

映画でハクからおにぎりをもらう千尋の気持ちが分かった気がした。

白米には恐ろしい力があると思った。

千尋のように泣いた。そして白飯をなぜか急いでかきこんだ。

また虚しさと惨めさと孤独が彼を襲った。

 

 

気づけば彼は眠りについていた。

 

 

誰よりもよく知る彼を私は闇から見続けた。

 

2017/06/23

ギターのノイズが酷いという事でギターをメンテナンスに出した。結局はノイズのちゃんとした原因はあまり分からず終い、とりあえずボリュームとトーンノブのガリが酷いところとジャック配線を見てもらうという事になった。直アンだとシングルコイルの一般的なノイズがなるだけでやっぱり原因はエフェクターやシールドにありそうだなと店員さんが言っていた。エフェクターは自分でできるだけ洗浄する事にした。シールドやパッチもずっと買い換えずにいたからこの機会に買い揃えようと思った。

ただやっぱり楽器屋のリペアはよくないなーと思った。正直ギターを開いてみないと原因は分からないとか言うくせにどこを治しますか?とか言ってくる。言った事しかしないのかと思いながらしぶしぶ対応した。リペア専門でやっているところに持っていけばついでに治しておいたよなんて事があったのに。

先客が何件かあるという事で2日間預かりになった。こうゆう練習したくてしょうがない時期に限って預かりなどになってしまうからじれったくて仕方がない。

 

帰り道信号待ちのところで古着屋の窓に映る自分を見た。エフェクターボード以外なにも持っていなかったのでボードの中身が大金にしか見えなくなってきて襲われたらどうしよなんて考えてしまった。大金でないにしろ今このボードを取られるのはマズイと思い大事そうに運んでしまって余計お金の匂いを放ってしまった。

幸い誰にも襲われず家に帰宅。

途中何度かギターを背負っていない事に焦った。あ、そうや。みたいな顔した自分の顔はさぞアホヅラだったであろう。

 

バイトまでYouTubeポルカドットスティングレイの新曲を聴いてまた同じようなカッティングかと思っていたらギタリストがカッティング以外で意外といいフレーズを弾いていてちょっと見直した。Radioheadの新曲もアップされていてこちらは難しい音楽ではあったがやはり素晴らしかった。そんな事をしているといつの間にかバイトの時間になった。

 

髪の毛を切ってやろうという事でバイトの休憩中に髪の毛のカタログを携帯で調べた。いつも思うがモデルの男の顔が男前すぎる。こんな風には絶対ならない。バッチリセットしてるしなんならパーマもかけてやがる。しばらく見ていると夜中に携帯で男前の写真を何枚も眺めている自分が気持ち悪くなってきたのでYUIを聴きながら綾波レイの画像を見て心を落ち着かせた。どっちでもいいから結婚してほしい。どっちも無理だなんて誰かが言った気がした。うっせぇ馬鹿野郎。あー早く帰りたい。

 

 

草草草草草草草草草草草草草草草草草

我輩は課題である。名前はまだない。ってゆうか名乗ってはいけない。ってゆう感じのLiveを終えて自分のやる事をしっかりと確認した。まだまだやらないといけない事と足りない事がいっぱいあるねー。自分で分かってるからあえてここで書いたりはしない。でも、甘いって言われるかもしらんけどここまで来れただけでおれは自分の中の現状がこんなにも変わって楽しみになったりしてる。

なんか強がるのも疲れてきてたしLiveでも自分が満足できる演奏できた訳じゃないし初心者同然で1から見直すいい機会やなーって思ってる。まぁ実際1年ぐらいほとんどギター弾いてなかったから初心者みたいなもんやねんけどな。強がってただけやってんなー、ハッタリなんてすぐお見通しって感じやった。

初心者でも10年やってる人でもおんなじステージに立つって事はそうゆう事って言われたし(まぁそんときはおれに言ってた訳じゃなかったけど)がんばらないとね。

 

 

 

そういえばこの前〇〇で草だった。の草について河ちゃんが教えてくれた。笑いのwの文字が沢山あってそれが草に見えるかららしい。

2チャラーの彼は変化形まで使いこなしててまじで草だった。使い方あってる?草を付けたあとにwwを入れたりするとディスられるらしい。個人的に草贈呈が1番ツボだった。おれも草贈呈してほしい。ってゆうかこんなに草草書いてたら草ってゆう字に違和感覚えてくるよね、これの事ゲシュタルト崩壊ってゆうらしいよ。トリビアの泉でやってた。草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草

なんかゲシュタルト崩壊ってゆうので歌詞かけそうって思ったけどマリオ王国、じゃなくてきのこ帝国のクロノスタシスみたいで嫌やなーって思ってやめた。

 

 

今日はこんなもんでいいかな、たまにはどーでもいい話もありやろ?

 

 

過ぎてきた日々全部で今の自分

 

 

2016年1月21日木曜日午前3時20分

うまく自分を普段から表現しきれない僕はいつも心の中で相手のセリフを反復して望むような答えが出来なかった事に悔やんでしまう。それが重なっていくと僕は無意識に人を避けて生きてしまうようになる。気づけば僕は孤独に生きてるんじゃないかって思うようになる。それはいけないと出来る限り人と会おうとするけどやっぱり帰り道に上手く話せなかった事にばかり頭が働く。それを繰り返す。そして誰にも会いたくなくなってしまう。そして塞ぎ込んでしまうようになった。

自分の部屋で鼻から粉を摂取して至福の時間を過ごした後に他人の顔が変わり変わりに僕に話しかけてくる。僕以外のみんなが集まって僕を会話のおかずにして酒を飲む映像が浮かんでくる。そこで皆はただ急に集まりに来なくなって塞ぎ込んで病人ぶってるやら自分が不幸になってる事に酔っているとかそうゆう事を話して楽しげに酒を飲んでいる。あの時は普通に笑ってたのによーとか言ってる。

だれも僕を理解してないんじゃないか、僕は実は本当の友達なんていないクチなんじゃないかとふと思った。いちど小さい疑問が頭に浮かぶとそれは徐々に巨大化し始めて僕の頭の中をパンパンになるまで膨れ始めた。そう思うととてつもない孤独に襲われて生きている意味すら分からなくなってしまった。気休めの薬ももうなくなって手に入らなくなっていた。コンビニで買ったウイスキーを一気飲みしてから病院でもらった強めのロキソニンを潰して鼻から吸って気を落ち着かせる。両手の拳はカサブタになっていてそれを必死にめくった。意味もなく両手の手のひらをぼーっと眺めた。気づけば外は明るかった。

 

 

 

なんて昔の日記を読んであの頃を思い出していた。あの頃の僕はそれでもバイトには行った。どんなに憂鬱になっていてもお金は必要だったし僕の中の諦めきれないものがそれをギリギリ繋いでいた。当時のバイト先は仕事こそ忙しかったものの特にストレスに感じる事は少なかった。機嫌が悪い日も多々あった気もするが皆優しかった。実は休憩中の座敷で悲しくなってたまに泣いたりしていた。皆んなの前では出来るだけ笑顔で接していたから気づいてなかったやろ?あなたに言っているんだよ?笑

 

あれから1年と半年が過ぎて僕はいま東京にいる。明日はバンドでの初ライブがある。色々あった気がするけど今は凄く時間が経つのが楽しみな生活かもしれない。レコーディングしてLiveして新曲つくって、バンドのメンバーもこれ読んでるみたいやからあんまり色々ゆうと恥ずかしいから言わんけど、まぁご賞味あれって感じ。よく河ちゃんがおれ天才やからってゆうのすごいなーって羨ましく思ったりするけどほんまはおれの方が天才やねんで?

今日はこの辺で…

 

 

不毛。

 

最近Twitterやインスタグラムで〇〇ちゃんと遊んだー楽しかったーみたいな事を書いている奴らに表面上の礼儀みたいな物しか感じられない。一生楽しんどけ馬鹿がよ

SNSを幸せの切り抜きみたいにして楽しいやら幸せやらがんばるーやら違う意味で人間らしい事を言ってる奴らは大量に納税していち早く死んでくれればいい。

おれだって楽しい事はある。でも辛い事がある。悲しい事がある。病んでしまう事だってある。怒る事だってある。そしてたまに幸せを感じる。

楽しかった出来事をアップする事に憤りを感じているんじゃない。そんなの人間じゃないと強く思ってしまうだけだ。

 

 

でもそう思ういっぽうでもう1人の自分がそうしないとやってらんない。って言う。

いつもへらへらしてる人ほど闇が深いって言う。毎日楽しいはずがないって言う。無理にでも自分を作って奮い立たせてるって言う。楽しい事を想像してそしてがんばるって言う。いつまで経っても悩んで、泣いて悲しいなんて呟いてるお前がいちばん見てて気持ち悪い、お前こそ納税して死ねって言う。

 

自分にさえも否定されてしまった僕は右も左も分からなくなってその場に頭を抱えてしゃがみこんでしまう。そんな自分が嫌いになってしまう。どっちの自分かは分からない。

 

 

気付かされる事今日と気付く事の出来ない明日

昨日は河ちゃんのアコースティックLiveがあるという事で池袋の今後お世話になるであろうライブハウスにお邪魔した。店長に挨拶ぐらいはしておこうと思っていた。

河ちゃんはいつも通り異様な雰囲気のLiveを終えて僕を店長の元へ連れていった。初めましてよろしくお願いします的なありきたりな挨拶をしたところでさっそく河ちゃんへのダメ出しが始まった。ただ河ちゃんは昔からお世話になっている人と聞いていたので愛のあるアドバイスだと受け取る事が出来た。全くもって正論であって僕は自分の意見を言うスキすらなかった。主に歌い方への指摘がほとんどだった。ギターへの指摘も少しあったような気がする。来週のバンドでのLiveの話になって、河ちゃんが僕を指して「彼いいギター弾くんで大丈夫ですよ」と言った時は嬉しく思いながらまじでやめてほしいと思った。レコーディングのスケジュールの話もしてとりあえず僕の緊張はほぐれていった。その後隣にいたブッキングマネージャーとも話をしたがこれも主にメロディーや歌い方を最初に指摘された。河ちゃんがサビで音を外してしまう。と相談していてそれを聞いた彼はまだ気付いてないのかと言わんばかりの顔でそれは違うなーと言った。それは外してるんじゃなくてそれは出ない音だと指摘した。最初聴いた時は自分にクエスチョンマークが浮かんだ。家で曲を作る時に大きな声を出せないから裏声でメロディーを作っているだろうと言って、それはLiveじゃ絶対出ないと言った。だからそれは音を外してるんじゃなくて出ないんだよ、そこを勘違いしちゃいけないと言って自分の中ではっとしてそんな事にも気付けていなかった事に腹が立った。曲作りの段階から見直さなければならないと言われてその通りだと思った。僕は河ちゃんが叫ぶように歌う気迫のような物が長所であると信じていていて、それがかっこいい物だと思っていた。もちろんそれは武器になると彼も言っていたけどそれが全てじゃダメだった。文字にすると当たり前のような事を言っているように感じるけど河ちゃんの気迫は凄まじい物を感じていたからその話を聞いた時はかなりショックだった。その後も音作りやLiveでの中音の話を色々と話した。彼はあまり僕の方を見なかったけれど僕に向けて言っているのだろうと感じた。帰り道に聞いた話だったがブッキングマネージャーの彼は元メジャーアーティストでギターもバチクソ上手いと聞いてなおいい話を聞けたと同時に悔しさを奥歯で表現した。電車に乗る頃になって河ちゃんが謎の頭痛に襲われて心配になったが寝ればなおると言ってそのまま別れた。12時半頃に駅を降りて家までの道をいつもと違う道を通って帰った。人1人いない道のど真ん中をゆっくり歩いて帰った。月が綺麗だなと思いながら気付く事のむずかしさについて考えた。まだまだ気付いてない事ばかりで気付いていなかった毎日に僕は自分を毎日改めなくてはならないと感じた。ただその事に気付いた事が進歩であると言い聞かせるたびに自分という名のプライドが邪魔をした。何かを手放してそして手に入れるって誰かが言ってたっけーと思いながら家に入った。

 

 

 PS

そういえば最近いつも行くカフェの店員さんが凄い笑顔で僕の目を見て接客してくれるんだけど、その度にもの凄い肩をあげで小さくなってしまう。こんな愛想がなくてガリガリの薄コケた奴にどうしてこんなに笑顔で振る舞う事ができるのか不思議に思った。ここ2日間ぐらいお風呂にも入ってないしヒゲだって剃ってなかった。そんなに見ないでほしい。そういえばそんな時はその子のおっぱいをずっと見るんだってどこかで聞いた事があったのを思い出しておっぱいを見だしたけどそれすらも恥ずかしくてなって一瞬で目をそらしてしまった僕はもう灰にでもなればいいと思った。カフェのトイレで毎日うんこはするし毎日コーヒー1杯で何時間も居座ってぼーっと考え事したり本を読んだり絵を書いたり文字を書いたりしてるし僕だったら絶対変な客だってスタッフ間でいじり倒してるだろう。そんな事を考えてたらあの笑顔はいじり倒してる奴が来たってゆう笑顔のような気がしてならなくなったので今からトイレでうんこをしてやろうと思う。

 

神様はきっと見てるから。

2015年9月2日。私は星になった。

 

「こっから見える1番光ってるあの星にお前の名前をつける。そうしたら無理してでも上向いて歩いたらお前を思い出す事が出来るやろ?お前を思い出せれば自然と笑顔になるやろ?」そう言った後あなたはセリフとは似合わないタバコに火をつけた。私は車椅子に座りながら左腕に刺さった注射ばりに目線を落としたまま口だけをかすかに動かした。

「ロマンチストのつもり?縁起でもない。私が星になるって事?そもそも季節が変わったら見えへんくなるやん……」

「…………………ごめん」

……なにか言いたそうにしていたが長い沈黙の後あなたはそう答えた。そうゆう事じゃないのに。私は心の中でどちらに毒づいたのかわからなくなった。黙っている私にあなたは色んなジョークを混ぜて話したけれどそれでも私は笑えずにいた。

最初病院の屋上で星を見ようなんて言い出した時はもうちょっとマシな誘い方はないのかと笑う事すらできなかった………でも本当は嬉しかった。あなたの事がわかった気がした。…あなたはそんな意味で言ったんじゃないと分かっていたけど…けれど私はもう星になりたかった……

 

周りの人はみんな私に気をつかった。残された時間を精一杯楽しめるようにって。それが惨めで仕方なかった。優しさを感じつつそれが憤りに変わっていくのが自分の中で手に取るように感じた。癇癪だって頻繁に起こした。私が無理に暴れるたびに病室は悪魔だって同情するぐらい哀しみにあふれた。その度に1本何万とするわけの分からない注射を打たれた。そして私は眠らされた。そして母は泣き崩れた。そして父が荒れた病室を静かに片付けた。病室に添えられる花の花瓶が何度変わっていったのか考えながら次の翌朝を過ごした。答えがでないまま食欲もわかないまま用意された食事に手をつけないでベッドの布団に包まって眠くなるのを待った。ただただ死にたくないから生きている日々だった。なにもしなくてももうすぐ死ぬのに。

 

毎週土曜日の夕方頃にあなたはいつも病室に訪れた。果物といつもと同じ黄色のマリーゴールドを今日も持っていた。

「なんでいつもその花なん?」

「………綺麗やろ?1月13日。お前誕生日やろ?誕生花。おれ賢くないから花屋さんに聞いてん。お前の誕生日言ってそれくださいって。それでいっつもこれ。見た目も綺麗やし気に入って……」

 嬉しいとも悲しいとも鬱陶しいともとれない顔をしてしまったような気がして反省した。そんな事ができるあなたが私は羨ましかった。しばらくの間あなたは私を屋上に連れていく事をしなくなった。病室で私に最近の出来事を楽しそうに話すだけになった。私はやっぱり笑えなかった。いつも消灯の時間ギリギリまであなたは私の横に座っていた。「じゃあそろそろ帰るわ。」今日の彼はそういってからが長かった。ふいに私の後ろの窓を眺めて物思いにふけっているような表情をした。

しばらく黙っていたけどあまりにぼーっと外を見えいるので聞いてみた。

「どうしたん?」

「…来週…久しぶりに星観に行こか……なんかニュースで来週の土曜日はすごい晴れてて夏の大三角が綺麗に見えるって言ってて。行けへん?」

「…うん、わかった。」

「うん、じゃあまた来週。」

そういってあなたは病室を出ていった。

 

私の身体は確実に死に近づいていっていたものの現代の医療はものすごく進化していて身体的な面に関してはギリギリまでごく普通の人と変わらない生活を送る事ができた。毎時間左腕の管の中身を入れ替えていることと大量の錠剤を渡される事を除いて。

 

週末左腕に刺さった薬の中身を看護婦さんが変えにきた時にテーブルに飾っている花を見て気になっていたと言わんばかりの様子で話した内容に私は奇妙な感覚に襲われた。

「いっつもマリーゴールド。しかも黄色。これ誰にもらったん?変わってるでしょその人。」

「え?」

「黄色のマリーゴールド。小さくて丸くて可愛らしい見た目やけどこれの花言葉って絶望とか悲しみとかってゆう花姿からは想像もできひんような花言葉やねんで。こんなんゆうのもなんやけど入院してる人に渡す花じゃないかなー。」

「……でもそれ私の誕生花らしいです。花屋さんに聞いて選んでもらったって。」

「あ、そうなん!?でも私高校生の頃花屋でバイトしてたからわかるけどそうゆう勧め方ってせえへんと思うで?誕生花は複数あるしお花屋さんは誕生花とかより花言葉優先して勧めたりするから。しかもよりによってその花言葉やし、普通やったら別の誕生花選ぶと思うけどなー」

「………」

私の中に恐怖のようなモヤモヤしたなにかが湧き始めたがそれは次の看護婦さんの言葉で吹き飛ばされた。

「ってゆうのは普通の意見やけどね」

「え?」

「さっき変わってるやろその人って言ったやろ?それはそうゆう事。」

「どうゆう事ですか?」

「聞きたい?」

「……はい。」

一瞬もったいぶったように笑った看護婦さんは子供にプレゼントを渡すような表情で話し始めた。

「これは私の想像の話やけど黄色のマリーゴールドって確かに絶望とか悲しみってゆうマイナスのイメージがある花やねんけどだからこそ反対の意味もあるねん。この花は悲しみのドン底におる人とかそこから這い上がれずにおる人に対して渡す事もあるねん。苦しいあなたにきっとこの花が寄り添ってくれるよって。元気出してってゆう意味でな。人ではなくて花が寄り添ってくれるってゆう表現私はすごい素敵やと思うな。だれかの苦しみを代わってあげることはできひんし、100%理解してあげる事もできひんから、きっとどんな言葉をかけてあげたらいいんかわからんくなっちゃったんやろな。だから黄色のマリーゴールドをきっとそうゆう意味でいっつも添えてたんちゃう?すごい素敵やな。大事にしいや。じゃあお大事に。」

そういってポンっと私の左腕を軽く叩いて仕事をテキパキと終わらせた看護婦さんは病室を後にした。

 

 その夜私は彼の事を思って泣いた。

携帯で調べたら1月13日の誕生花は全く別の花だった。自然と出てくる感謝の言葉は私をなにかの呪縛から解いてくれたような気がした。直接伝えたかった。それと同時になぜ彼が星を観に行きたがるのか不思議に思った。でもその答えが見つかる前に私は眠ってしまっていた。

 

土曜日あなたはいつもと同じように新しいマリーゴールドを古いマリーゴールドと取り替えた。りんごをひと口サイズに切っているあなたに私から屋上に行きたいと初めて口にした。りんごを食べ終わった後で星を観るにはまだ少し早かったが屋上に上がった。

外は予報通り晴れていて心地よい風が吹いていた。群青とオレンジとピンクと紫が混ざった綺麗な黄昏の空をしていた。この景色をいつまでも観ていたい。本気でそう思った。そう思うと急に自分の運命を実感して辛くなったがそれを心に押し殺して私は口を開いた。

「わかりにくいわ。」

「え?」

マリーゴールド。適当な嘘ついて伝わると思ったん?看護婦さんが教えてくれた。言ってくれなわからんて。」

 「そっか。ちゃんといつか言うつもりやってんけどな。ごめんな。」

「……ありがとう。ほんまに嬉しかった。私自分があとなんぼ生きられるか分からんけど精一杯生きようってほんまに思った。ほんまに」

そう言った途端そこまで来ていた何かが目から流れ落ちた。色々言いたい事があるはずなのに。いちど流れたそれはもう止める事が出来なかった。恐怖と感謝と決意と反省、色んな色をしたそれは私の目からとめどなく溢れた。あなたは私の肩をなにも言わずにただ抱き寄せた。私はそこでただ泣き続けた。

 

「感謝の言葉色々言いたい事あったのに。」

そういってしばらくして落ち着いた後私は顔を上げると彼の目からも同じものが流れていた。震える声で何かを言いたそうにしている。

無理な笑顔を作って所々途切れながらあなたは言った。

「……大丈夫。なにも言わんでいいよ。……だって神様はきっと見てるから…」

私はつい笑ってしまった。あなたのジョークで初めて笑えた。あなたの前で初めて笑った。入院して以来初めて笑った。涙を流しながら笑った。それはきっとこの世でもっとも美しい涙だと思った。もう眠くなるまで布団に包まってじっと待つ必要はなくなる気がした。少なくとも今夜は。だって今日のこの瞬間より美しい夢なんて存在しないのだから。

 

気付けばあたりはすっかり暗くなっていた。私達は2人で同じ空を見上げた。雲はほとんど無く都会にしてはよく星が見える方だった。満天の星空にはほど遠かったがそれでも空に指を指して見える星の数を一緒に数えた。星を観に行くのが不思議に思っていた事を話した。あんな物思いにふけったような顔をするからなにかあるんじゃないかと問い詰めたら正直に話してくれた。

「1月13日。誕生花の話おれ嘘ついたやろ?あれほんまは花じゃくて星やねん。」

そう言ってあなたは空に指を指した。

「デネブ。あの1番光ってる星。1月13日の誕生星はデネブ。……だから言ったやろあの時。こっから見える1番光ってる星にお前の名前をつけるって。それはそうゆう事やってん。」

あなたまたセリフに似合わないタバコに火をつけてから照れ気味に星の話をし始めた。そんな事あの時に理解できるはずがないという呆れた感情を抱きながら星を見上げて話すあなたの横顔を見ながらまた幸せの涙をひと粒こぼした。

 

少しづつ癇癪もなくなっていき花瓶はずっと同じままだった。黄色のマリーゴールドが今日も綺麗に花を咲かせて私にいつでも寄り添った。今日は1人で屋上に上がる事にした。あなたとのここでの想い出を振り返った。今日もあの日に似た綺麗な黄昏の空だった。風が私を追い越していった。あなたが言った神様の話を思い出してまた少し可笑しくなりながらその話を信じてみる事にした。……ありがとう。もう大丈夫。私の人生を生きていく。

 

2015年9月2日。私は黄色いマリーゴールドになった。