歪んだ青春。

よく夜中に長電話をしていた高校3年。特に話に内容もなく会話もない時が多かった。ただ切らずに練習している曲があると僕はギターを弾いて君はピアノを弾いていた。いつも同じところで躓いて何度も同じところを繰り返し弾いていた。君のピアノが上達していくのが僕は好きだった……おれは学校にうんざりしていて大きく遅刻するか休んでしまうかのような生活を過ごしていた。

昼休み。音楽室へ続く廊下の窓から外でサッカーをしてる人をどこか羨ましいような目で見てた。でも実際友達がいない訳じゃなかったから参加しようと思えば出来たと思う。ただおれはサッカーが嫌いだった。ゴール前に転がってきた絶好のチャンスボールを助走までつけてフルスイングで空を切った後派手にこけた時はもう笑い者どころじゃなかったし笑うならまだいいものの本気でおれに怒りをぶつける味方のチームのメンバーさえいた。あの時からサッカーは二度としたくないとさえ思った。どうもチームで1つの球を追っかけてパスを回したり蹴りながら走るのが苦手らしく体育でサッカーの授業があってもいつもキーパーにまわされるような人間だった。

だからおれはいつも昼休みになったらすぐ音楽室に行って1人でギターを弾いていた。

朝ごはんはまるっきり食べない生活だったので2.3時間目の休み時間に買っておいたパンを朝と昼の両方を兼ねて食事を摂っていた。昼休みにご飯を食べないおれは音楽室で1人になる事が多かったがそれは自分にとってとても安らぎの時間になった。電気が消えた音楽室にはカーテンの隙間から光が漏れていてその静けさと暖かさは学校の風景をより一層引きたたせ落ち着いた雰囲気をかもしだしていた。

そこでおれはギターを手にとったらいつも最初にRed Hot Chili PeppersのUnder The Bridge を弾いていた。この曲がたまらなく好きだった。一曲目が終わるか終わらないかぐらいで次第に人の気配を廊下に感じ、5時間目の授業で音楽室に入ってくる生徒も少しずつ現れた。最初は真っ暗な音楽室によれよれの制服を着た浮浪者風の生徒があぐらをかいてギターを弾いてる姿に変な視線をおくったりしてたものの、日が経つにつらてなんの躊躇もなく電気を点けてはベラベラと大きい声で話したり音楽室にあるピアノで猫踏んじゃったを友達に自慢げに披露しては鼻を伸ばしてるようだった。

 

そんなある日いつも通り昼休みに音楽室に向かうと先客がいた。音楽室は渡り廊下を渡った教室などが少ない1番奥の校舎の端にあったため渡り廊下を渡って階段を上がるといきなり静かになるような雰囲気だった。階段を上り切った頃からピアノの音が聴こえてきた。どこかで聞いた事のある曲だった。切なさと悲しみと希望と優しさが全て交わって壮大な曲になっていた。おれが音楽室に入ると女の子が1人でピアノを弾いていた。おれの事に気付いていったん演奏をやめたが「それ知ってる。続けてや」と言うと照れなのか嬉しいのか愛想なのかよくわらない笑顔ではにかんだ後遠慮がちに弾き始めた。ピアノが全く弾けないおれからみるとかなり上手なように感じるが小学生の時にピアノを習っていて少しかじっている程度だと言う。小説やテレビの世界ならここから恋が発展しそうな出会い方だが、先に言っておく。そんな事はなかった。名前すら知らずに卒業してしまった。僕は初対面の女の子にめっぽう苦手なため、関わり方をしくじるとその子に二度と話かけれなくなってしまう。案の定途中で彼女の友達が来てしまった。友達が男と音楽室で2人きりでピアノを囲んでいるのを見て一瞬ギョッとしたようだったが女の子は途中で演奏を中断して、じゃあとおれに軽く会釈してそそくさと教室を出て行ってしまった。なぜ音楽室にいたのかぐらい聞いとけばよかったなと思いつついつも通りギターを弾いて過ごした。

たがたまにその子は音楽室に現れた。

ただいつも友達と2人でいて、ピアノで遊んでいるようだった。僕は離れたところでいつも通りギターを弾いていた。ギターを弾いているとまるっきり自分の世界に塞ぎ込んでしまうためだれが何をしてても特に気にはならなかった。があの曲が流れると聴き入ってしまうようになった。

 

 

そうあの曲は…夜中に何度も電話越しにきくあの曲だったから。家族に怒られると電子ピアノの音量を小さくしながら練習していたあの曲。僕がギターを弾き君がよくピアノを弾いた。いつも同じところでつまずくあの曲。彼女より数段上手く弾くあの曲を別の人が弾くのをきいて謎の興奮に包まれた。君があの子にあの曲を教えてもらって電話で少しづつ上達していくのを聞いて歪んだ優越感に浸った。あの子は僕にあの曲を聴かれ君は僕に練習したその曲を聴かせる。真っ黒な心を落ち着かせるために僕が君にギターも教えた。そしてまた上達していくのをきいて優越感に浸った。